イベリコ豚の粉スペイン風サラダ

イベリコ豚の粉スペイン風サラダ

このレシピは、厳密な「料理」というよりも、スペインの家庭やプロの厨房で長年受け継がれてきた天才的な「活用術」です。その主役は「ポルボ・デ・ハモン」、つまり生ハムの粉。高級食材であるハモン・セラノやハモン・イベリコの端や、乾きすぎた部分を無駄にすることなく、究極のうま味調味料へと昇華させる知恵です。粉にすることで表面積が飛躍的に増え、口に入れた瞬間から唾液と反応して、まるでサラダの上で生ハム自体がとろけるような濃厚な風味を放ちます。11月の燻製豚バラのクラスでこれをサラダに用いたところ、その変わりように参加者から驚きと賞賛の声が上がり、独立したレシピとしてリクエストされるに至りました。シンプルなレタスとトマトのサラダが、これひとつでスペインのバルの味に早変わりします。.

調理時間:
難易度: 初級
適量(トッピングとして)
地域: スペイン(現代的な活用術)

歴史的・文化的背景

「ポルボ・デ・ハモン(ハムの粉)」の技術は、スペインの「無駄を出さない」食文化の真髄です。一本数十ユーロもする高級生ハムは、骨の周りや端の部分はスライスしにくく、また時間が経つとどうしても乾燥してパサつく部分ができます。それを捨てるのはあまりにも惜しい。そこで、これらの部分を細かく削ったり、挽いたりして、スープや煮込み料理、野菜のソテー、パスタ、そしてもちろんサラダの風味付けに利用する習慣が生まれました。

この習慣は、田舎の家庭よりも、むしろ都市のバルやレストランでより発展しました。なぜなら、常にハムを切っているプロの環境では、端肉が日常的に発生するからです。あるシェフはこれをオイルに浸して風味付けオイルにし、別のシェフはパン粉と混ぜてクロケッタの衣にしました。そして、「粉」という最も純粋な形に加工する方法が、ハムのうま味を最もダイレクトに、かつ均一に分散させる方法として定着していったのです。

日本ではこの「ポルボ・デ・ハモン」が市販されることはほとんどありません。そこでこのクラスで実践したのは、家庭でも再現可能な「冷凍粉砕法」です。これは、プロの厨房技術(低温下での粉砕による脂肪の分離防止)を、家庭の冷凍庫とフードプロセッサーで応用した、実用的で画期的な方法です。生ハムの魅力を最後の一粒まで味わい尽くす、現代の国際的な厨房ならではのソリューションと言えるでしょう。

材料(適量(トッピングとして)

  • 【ポルボ・デ・ハモン(ハムの粉)】
  • ハモン・セラノ(またはイベリコ)のスライス: 50-100g *スライス同士がフィルムで分離されていないもの
  • 【サラダ本体(基本形 - クラスで提供)】
  • レタス(ロメインレタスやアイスバーグなど、みずみずしいもの): 1玉
  • トマト: 2個(くし形切りまたは角切り)
  • 【ドレッシング】
  • エクストラバージンオリーブオイル: 大さじ3
  • シェリー酢またはリンゴ酢: 大さじ1
  • 塩: ひとつまみ(ハムの塩分があるため控えめに)
  • 黒胡椒(粗挽き): 適量
  • 【その他のサラダ提案】
  • ルッコラ、ベビーリーフ、エンダイブなど、苦味のある葉物
  • 薄切りにした赤玉ねぎ
  • オリーブの実

必要な調理器具

  • フードプロセッサーまたは高性能なハンドブレンダー(ミル機能付き)
  • ジッパー付き冷凍保存袋
  • まな板
  • 包丁
  • サラダスピナー(あれば)

調理手順

1

ハムの下準備(成功の鍵): スライスされたハムをできるだけ重ならないように広げ、ジッパー付き冷凍保存袋に入れ、平らにします。冷凍庫で完全に凍結するまで置きます(最低2時間、できれば一晩)。※スライス同士がフィルムでくっついていないことが絶対条件です。フィルムがあると、粉砕時にプラスチックが混入する危険があります。

2

一気呵成の粉砕: フードプロセッサーのボウルとブレードも、使用直前に冷凍庫で15分ほど冷やしておくと尚良いです。凍ったハムをパキパキと折りながらボウルに入れ、一気に、連続でパルス機能を使いながら粉砕します。ポイントは「ハムが冷たさを保ったまま」作業を終えること。5〜10秒以上続けると摩擦熱で脂肪が溶け始め、ベタついた塊になってしまいます。一瞬でサラサラの粉状になるのを目指します。

3

仕上げと保存: 理想的な細かさになったら、すぐにトレイやバットに広げ、再び冷凍庫で10〜15分ほど「仕上げ冷凍」します。これにより、粉同士がくっつくのを防ぎます。その後、清潔で乾燥した密閉容器に移し、冷凍庫で保存します(1ヶ月程度保存可)。使用時は、必要な分量だけをサッとすくい、すぐに冷凍庫に戻します。

4

サラダの組成: レタスは食べやすい大きさにちぎり、水気をよく切ります。トマトと和えます。ボウルにオリーブオイル、酢、塩、黒胡椒を入れて軽く混ぜ、ドレッシングを作ります。※ハム自体に塩分が強く含まれるため、サラダの下味は控えめが鉄則です。

5

最後の魔法: サラダを器に盛り付け、ドレッシングを回しかけます。そして、提供直前に上からたっぷりと「ポルボ・デ・ハモン」を振りかけます。これが「粉」の最大のメリットです。スライスハムをのせるのとは異なり、一口ごとにすべての葉に均一にハムの風味が行き渡ります。これにより、レタスサラダが最もその味を引き立てることが、クラスでの経験則です。葉物の爽やかな食感と水分が、粉ハムの濃厚な塩味とうま味を絶妙に運んでくれるのです。

盛り付けとマリアージュ

まさに「粉は胡椒のように」使ってください。サラダはもちろん、温かいアスパラガスやアーティチョークのグリル、目玉焼き、アヒージョ(ガーリックオイル煮)、クリーミーなポレンタの上など、あらゆる料理の最後のアクセントとして革命をもたらします。

クラスでは、ローズマリー燻製豚バラの付け合わせとして提供しました。燻製の深い味わいと、生ハムの粉の風味が複雑に絡み合い、非常に好評でした。

これだけで立派な前菜になります。カリカリに焼いたパンにエクストラバージンオリーブオイルをつけ、その上からこの粉を少しふりかけて食べるのも、スペイン流の至高の楽しみ方です。

地域によるバリエーション

地域や季節、手に入る野菜によって、どんなサラダにもこのポルボ・デ・ハモンを活用できます。例えば、夏はトマトやキュウリ、冬は根菜や温野菜のサラダにもよく合います。スペイン各地のバルでは、地元の旬の野菜と組み合わせて独自のサラダが楽しまれています。

実用的なアドバイス

なぜレタスが最適なのか: クラスで実感されたように、クセのないみずみずしいレタス(ロメイン、アイスバーグなど)は、粉ハムの強烈な風味をストレートに伝える「空白のキャンバス」として機能します。ルッコラやエンダイブなどの苦味のある葉物と混ぜる場合は、粉ハムの量を調整するか、よりマイルドなドレッシングと組み合わせることをおすすめします。

日本での材料調達: 市販の薄切りハモン・セラノで十分です。真空パックでスライス同士がくっついていないものを選びましょう。もしフィルムがはさんである場合は、慎重に全て剥がしてから冷凍してください。

粉砕の科学: ハムの脂肪分は冷たければ固体ですが、温まるとすぐに液体になり、粒子同士をくっつけてしまいます。フードプロセッサーを「パルス」で短く断続的に動かすこと、そして一気に終わらせることが、サラサラの粉を作る唯一のコツです。もし小さな塊ができても、指で軽くほぐせば粉になります。

保存の知恵: 作った粉ハムは必ず冷凍保存し、使う分だけ取り出します。冷蔵庫では湿気を吸って風味と食感が損なわれます。冷凍庫から出して容器を開ける前に、軽くトントンと叩いておくと、中で固まっていた粉がほぐれやすくなります。

究極のアレンジ: この粉は、バターやクリームチーズに練り込めば驚くべきスプレッドに、パン粉と混ぜれば肉や魚の最高の衣に変身します。あなただけの「秘密のうま味調味料」として、様々な料理でその可能性を試してみてください。

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