パテ・デ・イガード・デ・ポジョ(鶏レバーのパテ)

パテ・デ・イガードは、スペインのバル文化に欠かせないクラシックなタパスの一つです。このレシピでは、伝統的な技法に現代的なアレンジを加え、よりなめらかで型離れの良い仕上がりを追求しています。クリームミルクの豊かなコクと卵黄の濃厚さが、レバーの深い風味を引き立てます。.
歴史的・文化的背景
パテの文化はフランスが有名ですが、スペインにも古くからレバーを使ったペースト料理の伝統があります。中世のアラブ支配時代(711-1492年)に、レバーをペースト状に調理する技術がもたらされ、特にアンダルシア地方で発展しました。
16世紀のスペインでは、レバーは「貧乏人のフォアグラ」と呼ばれ、高価なフォアグラの代用品として一般家庭で親しまれてきました。当時のレシピ集『Libro de Guisados』(1525年)にも、レバーをワインで煮込む調理法が記載されています。
19世紀になると、シェリー酒産地であるヘレス・デ・ラ・フロンテーラ周辺で、シェリー酒を加えたパテが普及。現在のスタイルが確立され、バル文化の発展と共に全国に広がりました。
材料(6〜8人分)
- 【メイン材料】
- 鶏レバー: 500g(血抜き済み)
- ポロネギ(リーキ): 2本(白い部分のみ、みじん切り)
- にんにく: 3片(みじん切り)
- 【煮込み用】
- ドライシェリー酒(オロロソ): 120ml
- クリームミルク(または生クリームと牛乳の混合): 200ml
- タイム(生): 2枝
- ローリエ: 1枚
- 【結合・仕上げ】
- 卵黄: 2個分
- アガーアガー(粉): 小さじ1/2(水大さじ2で溶かす)
- 【調味料】
- 塩: 小さじ1/2
- 黒胡椒(粗挽き): 適量
- ナツメグ: 少々
- オリーブオイル: 大さじ3
- 【仕上げ用】
- エクストラバージンオリーブオイル: 適量
- タイムの小枝: 少々
- 粗挽き黒胡椒: 適量
必要な調理器具
- 中型フライパン(深めが良い)
- フードプロセッサーまたはハンドブレンダー
- 細かい網こし器(シノワ)
- パテ型またはシリコン型(複数)
- ゴムベラ
- 計量カップ・スプーン
- 小鍋
調理手順
下処理: 鶏レバーを流水でよく洗い、余分な脂肪や血管を取り除く。キッチンペーパーで水気をしっかり拭き取る。ポロネギは白い部分のみを細かくみじん切りにし、にんにくも同様にみじん切りにする。
ポロネギの甘みを引き出す: フライパンにオリーブオイル大さじ2を熱し、ポロネギを弱火で12〜15分ほど炒める。焦がさないよう注意しながら、完全に透明になり甘みが引き出されるまで火を通す。にんにくを加え、香りが出るまでさらに2分炒める。
レバーの焼き色付け: ポロネギを端に寄せ、レバーを加えて中火で4〜5分、表面にしっかり焼き色がつくまで焼く。中まで完全に火を通す必要はない(後で煮込むため)。
シェリー酒の香り付け: シェリー酒を加え、強火で1分間沸騰させてアルコール分を飛ばす。この時、フランベ(炎を付ける)をしても良い。
クリームミルクでの煮込み: クリームミルクを注ぎ入れ、タイムとローリエを加える。煮立ったら弱火にし、蓋をして50〜60分じっくり煮込む。途中で数回混ぜ、焦げ付かないように注意する。煮汁が半分程度になるまで煮詰める。
アガーアガーの準備: 小鍋にアガーアガー粉と水を入れ、よく混ぜてから弱火にかける。透明になるまでかき混ぜながら完全に溶かし、火から下ろす。
ハーブの取り出し: 煮込みが終わったら、タイムの枝とローリエの葉を取り除く。火を止めて少し冷ます(5分程度)。
ペースト状にする: 粗熱が取れたらフードプロセッサーに移す。アガーアガー液を加え、滑らかになるまで攪拌する。この時、まだ少し温かい状態であることが重要。
卵黄の乳化: ペーストがなめらかになったら、卵黄を2個加える。プロセッサーを低速で回しながら、卵黄が完全に乳化するまで混ぜる。この工程で、パテに光沢と濃厚な口当たりが加わる。
最終調味とこし: 塩、黒胡椒、ナツメグで味を調える。細かい網こし器で丁寧に裏ごしし、完全になめらかで均一なテクスチャーを作る。
型入れと冷却: パテ型に流し入れ、表面を平らにならす。ラップを密着させて空気を抜き、冷蔵庫で最低6時間、できれば一晩冷やし固める。
盛り付けとマリアージュ
型から取り出す際は、型の底を温かいタオルで20〜30秒包むか、熱湯に数秒つけると綺麗に抜けます。
スライスしたバゲットやトーストにたっぷり塗り、エクストラバージンオリーブオイルを回しかけ、粗挽き黒胡椒とタイムの葉を散らして提供します。
合わせる飲み物は、アンダルシア産のドライシェリー酒(フィノ)が最適です。白ワイン(アルバリーニョ種)やカバもよく合います。
甘みとの対比を楽しみたい場合は、イチジクのコンフィチュールやリンゴのチャツネを添えると、味の幅が広がります。
地域によるバリエーション
カタルーニャ風: 松の実(ピネンネク)とレーズンを加え、食感と甘みのアクセントをつける伝統があります。
ガリシア風: パプリカ・デ・ラ・ベラ(スペイン産燻製パプリカ)を加えて、スモーキーな風味を足すこともあります。
バスク風: ピキージョ(スペイン産ピーマン)を加え、より色彩豊かで甘みのある仕上がりにします。
実用的なアドバイス
クリームミルクについて: 今回のクラスで使用したクリームミルクは、生クリームの濃厚さと牛乳の軽さの中間的なテクスチャーを提供します。市販のクリームミルクがない場合は、生クリーム100mlと牛乳100mlを混合して代用できます。
卵黄の役割: 仕上げに加える卵黄は、単なる結合剤以上の役割を果たします。乳化作用によって口当たりをなめらかにし、黄金色の美しい色合いを与えます。ただし、加えるタイミングは重要で、ペーストがまだ少し温かい(60℃以下)状態で混ぜることで、卵黄が固まらずになめらかに乳化します。
ポロネギの利点: 玉ねぎの代わりにポロネギを使用することで、より繊細で甘みのある風味が得られます。特にスペインのポロネギは水分が少なく、炒めた際のカラメル化が進みやすい特徴があります。
アガーアガーの特性: 今回使用したアガーアガーは植物性の凝固剤で、ゼラチンよりも安定性が高く、常温でも溶けにくい特性があります。少量でしっかり固まるため、型離れが非常に良く、カットもしやすい仕上がりになります。
熟成の重要性: パテは時間をかけて冷やし固めることで、風味が融合し、テクスチャーも安定します。少なくとも6時間、可能なら24時間冷蔵庫で休ませると、味の深みが格段に向上します。
血抜きの省略: 現代の衛生的な処理がされた鶏レバーを使用する場合、牛乳に浸ける血抜き工程は必ずしも必要ではありません。むしろ、風味の損失を避けるためにこのレシピでは省略しています。